原作を読んでから映画を見ました。正直な感想としては、小説にとても感動したので物足りなく思う部分もあったのですが、原作小説の世界観を見事に描いており、特に役者の方々の心をえぐるような演技には圧倒されました。そうした演技の魅力を中心にこの映画について考えてみたいと思います。
（ネタバレありますのでご注意ください）
映画の内容について
■ストーリー
大学生の佐伯文は、ある雨の夕方、公園でびしょ濡れの少女・更紗に傘をさしかける。しかし、家に帰りたくない彼女の意を汲み、2カ月間も更紗を自分の部屋に入れて過ごした彼は、誘拐の容疑で逮捕されてしまう。それから15年後、ふたりは“加害者”と“誘拐被害女児”として思わぬ再会を果たす。
■キャスト
広瀬すず / 松坂桃李 / 横浜流星 / 多部未華子 他
■スタッフ
監督・脚本：李相日 原作：凪良ゆう 撮影：ホン・ギョンピョ
■公式ホームページ
https://gaga.ne.jp/rurounotsuki/
家内更紗：広瀬すず
更紗は小学校の時に、公園で本を読んでいたところを文に声をかけられて家についていく。決して無理に連れていたわけでもないのに誘拐事件の被害者になってしまっていた。
15年後に再会した時、お互いに彼氏と彼女がいて、被害者と加害者の立場のため、普通には再会出来ない関係になってしまっていたが、更紗の心は小学校時代と変わらず、文への想いが残っていた。
大人になって分別をもってわきまえる女性の心と、子供のころの想いの複雑な心の内を、広瀬さんは見事に演じていました。しかも、今の恋人の亮君のパワハラ的な迫害を受けながら、けなげでまっすぐに自分の気持ちを大切にする姿。そのはかない広瀬さんの演技には涙なく見ていられませんでした。
佐伯文：松坂桃李
佐伯文は少女誘拐犯人のロリコンとして悲しく描かれる。本当はロリコンではないのだが、決して真実を語れない事情がある。しかも小学生の更紗との2か月の生活は、彼にとっても楽しい期間だったので、誘拐犯として責められても仕方ない面がある。
刑務所で刑を務め、今はひっそりと喫茶店を経営しているところへ、偶然、更紗と再会。文の演技はすべてが静かで、ほとんど感情を表に出さない。しかし、更紗への気持ちを観客に感じさせる。「孤狼の血」であれだけ熱い演技を見せた松坂さんが、こうした静かな表情の中に、強い意志も見せる演技ができるとは大きな驚きでした。
中瀬亮：横浜流星
中瀬亮を演じた横浜流星さんの演技には、映画を見た人たちがみな驚いたのではないでしょうか。
いつも優しい、もしくはクールなイメージが強い横浜さんですが、本作では家族や恋人の関係の中で、優等生を続けられなくなった時の、自己アイデンティティの崩壊を見事に演じていました。
その壊れさまは狂気に満ちた演技となって、怖くて見ていられないくらいでした。新境地を堂々と演じる横浜さんに脱帽です。
谷あゆみ：多部未華子
多部さんも難しい役どころ。付き合って何年にもなる恋人の中瀬亮と深い付き合いに進めずに精神的につらくなっている中、彼氏に恋人風の女が現れ、しかもその女性は、恋人がかつて誘拐したとされる少女だった。
彼氏から何も聞かされていなかったという裏切られた感情、そしてきちんと愛されていなかったという怒りの感情などを切なく演じていました。
映画の魅力
以上の主な登場人物をはじめ、更紗の子供時代を演じた白鳥玉季さん、更紗の職場の同僚役を演じた趣里さんや、内田也哉子、柄本明さんなどみな素晴らしい演技でした。
李相日監督のコメントの中で、監督の役割は役者の良い演技を引き出すことだといったような発言をされていました。まさに、この映画は若手の役者を中心とした演技合戦を見せているような映画で、とても巣払いものでした。
また、その役者たちの演技と表情を見事に映像に収めていたのは、アカデミー賞映画「半地下のパラサイト」を撮影したカメラマンのホン・ギョンピョさん。キャストの表情と周りの風景を見事にピント送りして、切ない場面をしんみりと見せてくれました。この方のカメラワークにも感服させられた映画でした。
「流浪の月」。4人の演技に圧倒される映画です。（まとめ）
現在の日本映画界を代表する若手俳優陣が見事な演技を見せる「流浪の月」。そして、その役者たちの表情を情感たっぷりに映し出すカメラワークと、演出する監督の見事さ。今年のベスト5には入ってくる映画だと思います。
ただ少し思うのは全体的に重く感じさせすぎてしまったこと。更紗の父親、母親との心温める時代が小説には書かれており、その部分を外して症状誘拐事件の悲劇だけに焦点を当てていたのは、その内容はとても良かったですが、ちょっとだけ物足りなさを感じました。皆さんは、映画を見てどのように感じましたでしょうか？
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